どの学校にも、モテル奴はいる。しかも、どの女子からも無条件に支持されるようなモテ方をする奴だ。
例えるとしたら、ファンがわんさかいるアイドルと言ったところだろうか。
大抵は、勉強が出来たり、スポーツが出来たりする。それ以上に顔が物を言うが。
オレが、正にそれだったりする。
オレの場合、顔もそこそこ並以上だと思うし、スポーツも勉強も出来る。
いや、見るからにスポーツマンなのに、意外と勉強も出来る。と言った方が良いだろう。
そのギャップが良かったのか、オレは中学の3年間を学年で1、2を争う人気者として、過ごして来た。1番と言い切らないのは、ライバルがいるからだ。
オレとは正反対の男。見るからに勉強が出来そうで、スポーツも意外と万能な、あいつ。
上城 彰。
今、目の前にいる男だ。
オレが気にしてるのは、奴ではない。奴が今、話している相手の方だ。
名前は、鈴原 彩。
オレを振った女だ。
普通校舎と特別校舎に囲まれた中庭に、2人はいた。近くにあるベンチに座る事もなく、向かい合ったまま立っている。
ゲームのつもりだったんだ。告白して、OKされるかどうか。友達と賭けて……。
あっさりと断られたけど。
ショックだった。断られるはずがないって、思ってたから。
だから、理由を聞いた。
「私よりもっと良い子がいると思うんだ」
それが、あの子の答えだった。
でも、そんな理由で納得できるはずもない。オレは聞いた。しつこいくらいに。
そしたら……。
「顔は好みだと思う。けど、性格がね……」
衝撃を受けたって言えば良いのか? あれは。
その時、初めて否定されて、初めて中身で判断されたんだ。
傷ついたけど、ある意味、感動した。
それからオレは、その子にふさわしい男になろうと決めた。
そして、今日こそOKをもらえるように。って思ってたんだけど。
なんだ? あれ。
あの野郎、いつの間に鈴原と仲良くなったんだ?
あ、笑った。こうして見ると、やっぱ鈴原ってかわいいよな。おとなしすぎて気づかなかったけど。
頭も良いんだ。公立高校の合格発表があってから分かったんだけど。
いちおう、オレだって頭は良い方だと思う。成績はいつも学年で30位以内だ。クラスでだって5位には絶対入ってる。
なのに鈴原は、オレじゃ絶対に手の届かない、1ランク上の進学校へ行ってしまった。
埋もれた原石って、鈴原みたいな奴の事を言うのかな。
ライバルはライバルで、鈴原よりもさらに上の高校に行っちゃうし。
結局オレは、学年で1番の男じゃなかった。2番でもなかった。
「あれ……?」
ちょっと待て! なんで鈴原が上城の第2ボタンもらってるんだよ!?
え、なんか見つめ合っちゃってるし。
鈴原……今まで見た事もないくらい生き生きしてんな……。
あー……。そういう仲だったのね……。へえー。
どうしよう……。しばらく立ち直れそうにねえ……。
「あ、もらった」
アタシの友達が、上城君から第2ボタンをもらった。
友達の名前は、鈴原 彩。
アタシとは全然、違うタイプの地味な子。
ただのグループの違うクラスメートで終わるはずだった。
あの子が、上城君を紹介してくれるまでは。
上城君は、学年で目立つ人だ。
ま、あのルックスで勉強が出来て、おまけに体育も5だもん。ある意味化けモンみたいな人なわけ。
どっちかって言うと、ワイルド系が良いんだけどね。
アタシ、鈴原さんよりかは進んでると思うし。要は、地味な子が、自分よりも仲が良かったのが気に入らなかったのね。
しかも、あんなポイントの高い男子と。
だからさ、イジメまでは行かなくても、ちょっと意地悪しちゃおうかなーなんて思ってたんだ。
何を勘違いしたのか、アタシと上城君がくっつくように、鈴原さんがいろいろ手を回してくれるまでは。
完全な勘違いだったんだけどね。アタシが意地悪するのは、上城君の事でヤキモチ妬いてるからだって、勝手に解釈しちゃってさ。
別に鈴原さんは、上城君の事、好きでもなんでもなかったんだよね。ただの友達で、だからこそ、余裕でそんな事が出来たわけで。
アタシだって、別に好きってわけじゃなかったんだけど。自分のプライドが許さなかったってだけ。
今さらだけど、鈴原さんはオトナだったのね。きっと。
で、アタシはガキだったんだ。きっと。
あームカツク。
オトナなくせに、お人好しで天然な鈴原さんがムカツク。
こうして見れば、2人ともお似合いだよねー。くやしーけどさ。
第2ボタンだって、結局は鈴原さんへの当てつけみたいなモンだし。
アタシが鈴原さんだったら、第2ボタンは譲ってあげるんだろーな。
「これは、アンタが持ってた方が良いよ」って。あ、鈴原さんは「アンタ」なんて言わないか。
あ、上城君が何か渡した。
こらまた分厚い本だなー。ありえねー。
辞典とかかな?
あの2人、ありえないくらい頭良いもんなー。
何か、上城君……鈴原さんの前だと超笑顔だし。
つき合わないのかな。あの2人。
窓ガラスから反射した光が照らす、中庭で。2人の卒業生が見守る中、彩と彰は、談笑していた。
「俺には分からないんだけどさ、そんなに嬉しい物なの? ボタンなんて」
「女の子のロマンだとか、他の友達は言ってたけどね」
「物は貰えても、心は手に入らないのにね」
その一言で、彩は苦笑した。
「是非見てみたいな。心が手に入るところ」
彩につられて、彰も口元を歪める。
「それは、相手が君じゃなくても構わないって事?」
「私じゃ無理だと思うから。良いよ。この際、決定的瞬間が見れるんなら誰でも」
「試しにでもつき合ってんのに、女の子を紹介しちゃうくらいだもんね」
2人の間で、クスクスと笑い声が漏れる。
「多少、餌はバラまいておかないと。それくらいリスクがあるって事。彰とつき合うには。
って言っても、あの人も本気じゃなかったけどね。今どき、第2ボタン程度で満足しないよ」
「えー、そう? でも、それでもし、俺が『別れよう』なんて言ったら、どうするつもりだったの?」
「むしろ、それを期待してたんだよ。なのに、ちっとも妬いてくれないからさ」
「よっぽど、俺が取り乱すところを見たいんだね。残念。あの子を落胆させるほど、俺は酷い奴じゃないから」
「私を追っかけ防止に使おうとしてた奴がよく言うね」
「あ、やっぱり見抜かれてた? でも、公言してないから、俺たちがつき合ってる事は誰も知らないと思うよ」
「知られてたら、私がイジメられるって」
「だから振っちゃったんだ。バスケ部の男子」
「君と同じくらい人気者だからね。彼は」
ふと、会話がやむと、2人は見つめ合った。
「嫌な奴だね」彰が言った。
「うん、嫌な奴だね」彩が言った。
「そんな君が、大好きだよ」
「私も。そんな君が、大好き」
2人とも、普段、見せた事もないような、満面の笑みを浮かべていた。
「あ、そうだ。これ、ありがとね」
そう言いながら、彰が鞄から取り出したのは、ゲームの攻略本だった。
「もう全クリしたんだ。さすが」
「もう、こうやって思う存分、嫌味をぶちまけられる相手がいなくなるのは寂しいよ」
「ホントだね。君みたいに胸くそ悪い男子なんてそういないし」
「君みたく本当に根性の腐った女子にもお目にかかれないだろうし」
そこでまた、会話がやんだ。2人とも寂しげに見つめ合う。
「新しい学校でも、彰みたく楽しい子に会えれば良いんだけどね」
「俺は、もう諦めてるよ。彩みたいに刺激の強いストレートな子は、そういないから」
そして、2人はしっかりと握手を交わした。
「お互い物足りないと思うけど、しっかりやろうね」
人影のなくなった、中学校の中庭。密かに想いを隠す2人に、この超ドSコンビの会話が聞こえているはずもなかった。

