ウラゲッチョ!
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おしょーさん
CLASS3:卒業間近の大掃除

 ヒマだなー。あーマジヒマだー。
 オレは意味もなく学校の廊下を徘徊していた。
 いや、帰るよ。今日なんか、授業もないのに卒業式練習だけで学校に来させられたって感じだし。さっさと帰るよ。
 でもさー、放課後に何もないと、なんっか物足りないって言うかさー。
 オレは、夏で引退するまでサッカー部だった。毎日、放課後に猛練習していたせいか、ホームルームが終わって真っ直ぐ家に帰るのは、何だか物足りない。
 自慢じゃないが、オレは勉強は苦手だ。学校に行くのも、体育と部活のために行っていたようなものだ。
 受験も終わったし、後は卒業式が残ってるだけ。
 あ、上城を誘ってどっか寄ろうかなー。
 上城ってのは、同じサッカー部の友達だ。下の名前は、彰。
 あいつ、もう帰っちゃったかな。出席番号なんだったけなー。
「お? あーいたいた。上城! 帰りにどっか寄ってかねえ?」
 上城は、ちょうど帰ろうとしていたみたいだ。昇降口で自分の下駄箱を開けていた。
「良いよ。どこ行く?」
 OKはもらったけど……あれ?
 上城の陰から、色白の小さい顔がひょっこりと姿を現した。
「鈴原じゃん。あーなんだ、2人で帰るところだったのか? ならいいや」
 ちびっちゃすぎて、もろに上城と被ってしまっている。
 鈴原 彩。上城のカノジョだ。多分。本人たちは何も言ってないが、この雰囲気はどう考えてもつき合っているとしか考えられない。
「え? そんな気い使わなくて良いよお」
「そうだよ。彩と3人でどこか行こうよ」
 いや、気は使うだろ。2人して首かしげないでくれ。
「あーでも、これを何とかしないと帰れないか」
 そう言いながら、上城は何やら困ったように自分の下駄箱をのぞき込んだ。
「ん? どーした?」
 後に続いたオレの視界に入ってきたのは、溢れんばかりに詰め込まれた、手紙、手紙、手紙。手紙の山。
「なんじゃこりゃー!?」
 思わず某刑事のお決まりシーンを再現しちまったじゃねえか!
 うわ、すげーなこりゃ。靴が隠れて見えねえ……。
「惜しい……。今度こそ靴入れからドッサドサが見れると思ったのに」
 おーい、そこの天然カノジョ。
 嫉妬して怒り出すかと思えば、鈴原は奇妙な期待を裏切られて舌打ちしている。
「カバンに入るか?」
 鋭い眼光のカノジョにツッコミを入れる勇気が出なかったから、上城に話を振ってみる。
 そしたら、上城はどこか遠くを見つめて呟いた。
「これを鞄に入れるのか。怖いな……」
 はい?
「お祓いしてもらえば? 良い人知ってるよ。まだ学校に残ってると思うけど」
 お祓い?
 何を言ってるんだ? このバカップルは。
「何言ってるんだよ。大げさだな。なんなら、オレのカバンに入れて運ぶか?」
「触るな!!」
 手紙に伸ばしたオレの手を、上城が叩き落とす。おかげで手紙の1つが飛んでしまった。
「何すんだ――」
 反論しようとしたら、上城はオレの手首を掴んで顔を近づけた。
「手紙に触るな。血を見るぞ」
 血い……!?
 唖然としているオレをほっぽって、上城は目元を押さえて呻く。
「捨てよう。そうだ、学校で処理しよう」
「ダメ! こーゆうのはちゃんと供養しなきゃ! 女子の怨念って怖いんだから」
 上城の腕を掴んで、鈴原が食らいつく。顔が鬼気迫っている。
 どうしよう。たまにこいつらがよく分かんねえ。

 そのまま、鈴原に引っ張られるままに廊下を歩く。辿り着いた先は、第一理科室だった。
 辺りは薄暗くなり始めていて、正直ちょっと気味が悪い。
「こんなところで何すんだよ」
 なんとなく、さっきの会話を思い出して帰りたくなる。
 と、その時。部屋の隅に青白い炎が浮かび上がった。炎に照らされて、眼鏡が白く光っている。
「ひぎゃー!」
 かっこ悪いとか、そんなのはもうどうだって良い。オレは半泣きだと思う。いや、マジ泣きかも。
 とにかく回れ右をして、オレは教室から逃げようとした。
 ばがんっ。
 鈴原にドアを閉められて、逃亡は失敗に終わった。
 それよりも、ドアに激突したせいであちこち痛い。殺す気ですか? カノジョさん。
 上城はため息をつきながらも、冷静に電気をつけた。どうしてお前は動じないんだ?
 教室の隅には、ボブヘアーの女子が、火の点いたガスバーナーを持って立っていた。さり気なく、グッと親指を上に立ててたりする。
「おしょーさん。ちょっと頼みがあるんだけど」
 あの子が、鈴原の言っていた「良い人」だろうか。
「これ、お祓いしてもらいたいんだ」
 そう言いながら鈴原は、手紙の山を机の上に置いた。
 問題の手紙は、近くの教室からかっぱらって来たゴミ袋に入れられていた。真ん中に「燃えるゴミ 特大」と、でかでかと印刷されている。
「あら〜。これはまたドロドロね〜」
 何がどうドロドロなんだ?
 おしょーさんと呼ばれた女子は、ゴミ袋の底をつまんで逆さまにし、手紙を机にぶちまけた。
「とりあえず、中身を見てみましょうか」
「あ、気をつけて。開けた途端に破裂するかもしれないから」
 どんな手紙だよ、それ。
 上城は、手紙の開け方について慎重すぎるほど神経質に教えていく。
 とりあえず、ハサミやピンセットを使って手紙を少しずつ開けていく。
「ん? なんか入ってるぞ」
 端をつまんで手紙を傾けると、カミソリの刃が出てきた。しかも、刃単体。
「ああ、良かった。まだかわいい方だよ」
 あの、上城サン? にこやかに何を仰っているのデショウカ?
「あら、呪いのワラ人形」
「すごーい! よく封筒に入ったねそんなの!」
 オレは、向かいで騒いでいる女子2名の話を聞かなかった事にした。
「さて、次のは……」
「髪の毛の束だ。結構、長いな」
 オレは何も聞いていない。何も知らない。
 今度の封筒は、ただ手紙が入っているだけだった。た、助かった……っ。
「今、あなたの家の前にいます――」
 次のにしよう。次のに。
「結婚式はいつにする?」
「あ、結婚届」
「すごーい! ちゃんと全部書いてある。判まで押してあるし。後は届けるだけって感じ」
 つ、次!
「今、あなたのベッドの下にいます――」
「今度は出産届よ」
 次……。
「この干乾びたのって……。もしかして、へその緒?」
 かーみーしーろー!
 もうそれ以上、オレは手紙を開ける事ができなかった。

「それじゃあ。しっかりお祓いさせてもらうわね」
 結局、残りのほとんどは、オレ以外の3人が確かめた。
「一応、大きな騒ぎにならないように、春休みが始まってから効果が出るようにするけど」
 特大のゴミ袋を背負って、おしょーさんが意味不明な事を言う。
「うん、そうして。あ、さすがに入院はやばいから、何日か寝込む程度にしておいて」
 鈴原のその台詞に、言い知れぬ悪寒が走った。
「じゃ」
 おしょーさんは、不敵な笑みを浮かべて、シュタッと手を挙げると、廊下の向こう側へ消えて行った。

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