「鈴原さん!」
意を決して、ボクは彼女に話しかける。
プリント片手に振り返った彼女は……ああ、今日も可愛い!
「保健委員、大変そうだね」
保健委員に自ら立候補した彼女は、体育祭を目前に、休み時間を忙しそうに駆けずり回っていた。
「救護係どころか掃除までかけ持ちだからねー。ま、体育委員に比べれば、まだマシなんだけどね」
ちょっと困ったような顔で笑う彼女が……うわ、ホントに可愛い。
この、ちょっと首を傾げるのがさあ。良いねえ。この右35度!
「……村山君?」
やばい。つい、妄想してた。
ボクは、不思議そうな顔をした彼女に呼ばれて、やっと我に返った。
そんなボクを特に気にする風でもなく、彼女はふわっと微笑んだ。
「村山君こそ写真、大変そうだね」
そこで、ボクの頭は一瞬だけ止まった。
村山君……?
嫌な予感が、とんでもなく嫌な予感が、する。
「あの、宮村なんだけど……」
その瞬間。彼女は、分かりやすすぎるほど頬を引きつらせて、固まった。物の見事に、固まった。
「ごめん! 名前覚えるの苦手でさ。宮村君ね! うん、覚えた!」
そう言って、彼女は逃げるように教室を出て行ってしまった。
ちょっとショックだったけど、これで誰よりも先に顔と名前を覚えて貰えたと、思う。
そう、思ってたんだけどな……。
彼女が、アルバム委員の女子と話をしていた。
そいつは結構ギャルの入った奴で、そんな奴とも話すのか、と意外に思っていた。
何やら、そのギャル女は笑いながらこっちを指差している。
何だよ一体。
そして、手を合わせて彼女に頭を下げると、そいつはどこかに言ってしまった。
って、彼女がこっちに来るよ!
「どうしたの?」
ちょっと声が引っくり返っちゃったかな。
彼女は彼女で、何故か少し緊張しているようだった。
「あのね、梅宮君」
思わず、体が傾く。
「違う! 三村君!」
不安そうな顔で自信満々に言い切らないで下さい。
「そうだ! 木村君だ!」
そのままボクは、机の上に突っ伏した。
「宮村ね……」
「ごめん! ほんっとごめん!!」
真剣なのが余計に傷つくな。
でも、何か慌てる鈴原さんって、可愛いかも。
「次に呼ばれるのが楽しみだなー」
にやけ顔も、本音も隠さずに、言ってみた。
「もう、意地悪しないでよー」
少しムッとしたような顔も、可愛い。
惚れた弱みって、こういう事なのかな。
そうしていく中で、彼女と打ち解けていける事を喜んでいたんでけれども。
「あ、ねえねえ。さっき小林さんが、体育祭の写真の事で話したいって言ってたんだけど……」
「写真部、頑張ってる? さっき広報の人が、写真使いたいって言ってたんだけど……」
それ以来、彼女はボクを名前で呼ぶ事は一切なくなった。
「あ……。男子ってさ、どんな色なら着れる? クラスTシャツ作るのにさ、訊いて欲しいって言われて……」
何が何でも、名前に触れなくなった。
間違ってても、良いです。
君なら、全く構わないです。
むしろ、反応を見て喜んでます、ボク。
だから。だから、せめて名前で呼びかけて下さい!

